パリオリンピックと勝利の女神

先日、東京オリンピックが閉会しました。
閉会式の中で、次回2024年のパリオリンピックへのバトンセレモニーが行われ、フランス国家(ラ・マルセイエーズ)を演奏しながらパリの街なみとスポーツがリンクした映像が流れました。


https://youtu.be/WBNjyvbqRYY

その中でも非常にパリオリンピックならではの、象徴的な1シーンがありました。

ルーブル美術館のデュノン翼(DENON)、ダリュの階段の踊り場に鎮座しているサモトラケのニケの前の階段でフランス国家を演奏する音楽家たち(1:28〜, 2:43〜)。演奏する背後、階段の上でニケが翼を広げているのです。

このシーンは2回にわたって放映され、パリオリンピックの中にある重要なテーマが発信されていました。

サモトラケのニケが示す重大な意味

サモトラケのニケ(Victoire de Samothrace)の像は、ルーブル美術館の中でも特に人気の高いギリシア彫刻の展示物の一つです。

遠い昔、約紀元前190年頃に戦いに勝った記念としてこの女神像が作られたと言われています。ギリシアのサモトラケ島で発見された当時、女神の頭と両手は失われており、翼も発見時は粉々に破損していたと言います。

現在の翼は修復され、空から船のへさきへと降り立った女神ニケ(Nike)は今まさに羽ばたかんとしています。後ほど発見された腕は、手が大きく広げられているそうです。


では、たくさん優れた銅像があるルーブルの中でも、なぜこの女神像が映像に出てきたのか?

 
そう、それは、ニケがスポーツに縁の深い女神だからです。
フランス語の名前(Victoire)から推測できるように、ギリシア神話においてニケは「勝利の女神」として知られています。さらに、言うまでもなく、ニケは、オリンピックの発祥の地、ギリシアの女神です。古代ギリシアのオリンピックはギリシア神話と密接な繋がりがありました。。

 

つまり、この映像は、21世紀における人間たちの最先端のオリンピックを、オリンピックをつかさどる勝利の女神ニケが見守っているというメタファー(暗喩)なのです。
まさに、勝利の行方は神のみぞ知る・・とばかりに。

 

ちなみに、ニケという名前を聞いたことがなかったとしても、多くの日本人はニケのことをよく知っています。
ニケはNikeと書きます。そう、ニケは英語ではナイキと読みます。ナイキといえば、世界的に有名なスポーツ用品メーカー。
ナイキのロゴマークを思い出せばわかります。ほら、ニケの翼があるでしょう?

 

あのシーンを見て、ナイキのスタッフたちは大喜びしたに違いありませんね。
ちなみに、ナイキの本社は米国オレゴン州ポートランドにあります。

 

ニケの登場で見えてくる、真の意味

なぜ、あのシーンで、サモトラケのニケの像が使われたのか。
ちらりと映した(しかも2回も!)あの映像で、どういう意味が込められていたのか。

ニケの持つ象徴の意味を知っていれば、フランスが伝えたかったことが見えてきます。

ルーブル美術館はパリ市のど真ん中に位置する、フランスを象徴する文化、芸術、叡智、伝統を象徴する物質的にも精神的にも豊かな場所です。

この場所を近代スポーツの祭典の場として使うには、伝統と革新のさらなる融合が課題となります。

 

伝統的なものに変化をつけようとすると、しばしば反対や拒絶が起こります。
しかし、伝統を象徴するルーブル美術館の中でも、ギリシア神話のなかでも勝利の女神がが選ばれ、人々を鼓舞するようにフランス国歌と共演したということは、「勝利の女神はフランスと共にある」ということでもあり、または「ヨーロッパ発のオリンピックの伝統と革新」という大きなメッセージに他なりません。

これはフランスの国威発揚といった意味でも、世界中の知識人にフランスの価値を大いに示し、3年後の祭典を期待させる映像となりました。

 

そう言う意味でも、ニケは、オリンピックに真に相応しい人(神)選だったといえるでしょう。

 

最後宇宙からのサックス演奏でこの映像は終わっています。
伝統と革新。都市と宇宙とオリンピック。様々な時と場所からつながった国歌演奏でした。
2024年のパリオリンピックに期待したいものです。