歌舞伎と日本人の矜持

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私は歌舞伎鑑賞が大好きで年に何回か観劇に行きます。
昨日は地元に歌舞伎の地方公演が来たので、早速観に行ってきました。素晴らしく華やかなお芝居、役者たちや演奏者たちの熱演であっという間の数時間で感動しました。

 

ところで皆さんは歌舞伎を観に行ったことはありますか?
先日、海外ビジネスのセミナーを受講した時、講師から「日本文化の一つに歌舞伎がありますが、好きな歌舞伎の演目を答えられますか?」という質問がありました。しかし、多くの(このセミナーはサラリーマンが多かったのですが)受講者は「歌舞伎を観たことがない」「敷居が高そうで興味がない」「知らない」と答えていて少なからず驚きました。
ハリウッド映画は毎週のようにTVで放映したり映画館で鑑賞できるのに、日本ならではの歌舞伎に対する興味関心は非常に低いのが現在の日本なのですね。

今日は、そんな、歌舞伎の中にある日本人の感性について少しだけでもお伝えできたらと思います。

 

日本人が好きな題材や事件を扱っている

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「源平合戦」「戦国時代」「忠臣蔵」・・、年末の特番やNHK大河ドラマでも毎年のようにこれらを題材としたドラマは一定の人気があります。
歌舞伎でもこれらの題材は人気のテーマで、沢山の演目があります。しかも歌舞伎はもともと庶民に向けて開催された娯楽演劇ですので、史実をもとにしたフィクションとして人情味たっぷりに興味深く取り上げているのが特長です。ではなぜ、これらの題材は飽きることなく続いているのでしょうか。
例えば、忠臣蔵。有名なストーリーですね。
江戸地代、赤穂藩主である浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が江戸城の松の廊下で吉良上野介(きらこうずけのすけ)を刀で斬りつけた罪を問われ、内匠頭は切腹させられお家は断絶というスキャンダラスな事件が発生しました。武士道でいう喧嘩両成敗、というフェアな解決ではなく、吉良氏はお咎めなし、一方的に加害者として断罪された赤穂藩は離散の憂き目にあいます。
赤穂藩の家老である大内蔵之介(おおうちくらのすけ)以下47名の赤穂藩の侍達は、紆余曲折の上に数年後、吉良邸に討ち入りし主の仇の命を奪った後で全員切腹します。自分の命と引き換えに主君の名誉を守るという、当時の武士社会の道徳心により起きた一連のあらましは、当時非常に大きな関心をあつめ、人々に語り継がれ歌舞伎や浄瑠璃の演目としても発展しました。
でもね、今の日本では考えられない価値観ですよね。
当時は敵討ちが法律で認められていた封建時代だったからこそ成立した出来事で、現代だったら浅野氏は吉良氏を刀で斬りつけた時点で傷害罪の罪に問われますし、被害者である吉良氏に「あいつだけのうのうと生きていやがって」と浅野氏の部下が吉良氏を殺しに行くっていうのもマフィアやヤクザの抗争のような犯行です。
もし今、似た事件が起きたら「完全に逆恨みですよね」「そんな恐ろしいことを考えている人達とは思わなかった」「計画的かつ残忍な犯行」「最後に追い詰められた犯人たちは集団死という異常な結末を迎えた」・・なんてニュースでも大騒ぎになることでしょう。

 

人情味あふれるドラマが歌舞伎の醍醐味

0702-3今だったら「そんなことありえない」「考えられない」という題目の多い歌舞伎。
しかし、歌舞伎の忠臣蔵のテーマは人情にあり、人情に訴えたから今なお大人気なのではないでしょうか。
忠臣蔵でいえば、切腹させられた主人の無念を思う47人の侍達が、世の中を追われやっとのことで生きながらえながら敵討ちとして討ち入りを果たすまでの苦悩や思いが、当時の人々だけでなく、今に生きる私たちの心に強く響いているから、未だに人気の演目であることは間違いありません。
そしてそれだけでなく、「判官びいき」というある種の庶民思想にも大いに関係していると思われます。判官びいきとは、不遇な身の上の人や弱い立場の人に同情して肩をもったり応援することを言います。この判官とは、鎌倉幕府を創設した源頼朝の弟、源義経のことを指します。
義経は天才的な軍人で、当初劣勢だった源氏の戦いを勝利に導いた鎌倉幕府設立の功労者ですが、後に頼朝に都を追われ、最後自分を匿ってくれた奥州藤原氏の裏切りにもあい、最終的には切腹して亡くなります。

「実の兄のために戦ってきたのに、うまくいった途端に疎まれ悲惨な最期を遂げる」・・頑張ってきたのにそんなのあんまりじゃないか、正義はどこにあるんだという庶民の同情や怒りが、弱い者を応援したいという判官びいきとして根強くあるため、「源平合戦」「戦国時代」「忠臣蔵」といった演目が人情ドラマとして構成され、今なお人気がある題目なのだと思います。

 

 

いかがでしたでしょうか。
歌舞伎の演目は本当に多岐にわたり、私が一番好きなのは「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」という今でもワイドショーが飛びつきそうな事件を扱った演目だったりするのですが、そこにも人間の心理が鋭く描かれており、油にまみれながらの熱演は何度みても手に汗にぎるサスペンスです。

 

歌舞伎の独特な節回しや難解な言葉が苦手な方には、鑑賞しながら解説をオンタイムでしてくれるイヤホンガイドもあります。私もイヤホンガイドの熱心なユーザーですが、ストーリーだけでなくとってもわかりやすく歌舞伎の世界を解説してくれるのでおすすめです。