視線の方向

前回のパリ出張の合間に、パリから列車で2時間ほどの北西の小都市カーン(Caen)に日帰りで行ってきました。
目的としては、パリだけでなく地方都市の商圏視察という名目がありましたが、歴史好きとしては、第二次大戦中に「史上最大の作戦」といわれたノルマンディー上陸作戦(イギリスやアメリカがフランス奪還を目指して空と海から侵攻した戦い)のメモリアムミュージアムを見ておきかったという理由です。

 

10年前、パリのアンヴァリド(廃兵院)でみた一枚のモノクロ写真が忘れられません。
シャンゼリゼ大通りを行進する戦車の隊列。
フランス随一の大通りの建物という建物からは、ナチスドイツの鉤十字の大きな軍旗がはためいていました。
そう、第二次大戦中、フランスがドイツに占領された時の写真です。
ざわざわしていた観光客たちはそこだけ声もなくじっと見入っていました。
フランスの悲しい歴史。
ずっと気になっていたその時代を、もっと知らなくてはと思う気持ちが、私をカーンに向かわせたのでした。

 

小雨の降るパリの早朝にノルマンディー地方へ向かう列車の発着駅でもあるサンラザール(Saint-Lazare)駅まで行ったのですが、早朝ということもありメトロの本数が少なく、あやうく遅刻しそうに。
遅れてはいかんと改札を一旦出てタクシーをつかまえサンラザール駅まで急いでもらいました。
発車数分前に駅に到着し、クロワッサンとコーヒーをスタンドで買って2等列車に飛び乗りました。

 

曇り空の中、列車は目的地のカーン駅へ。
大都会パリとは違った小都市のこじんまりとした雰囲気が妙に懐かしく感じられました。
街の中心地であるカーン城とサンピエール(Saint-Pierre)教会を見学したのち、トラムに乗ってメモリアル記念館に到着。

中には、社会科見学で来ている地元の学生たちの他、ドイツ人観光客が目立ちました。
ドイツ人観光客は、息をつめて展示に見入っていました。
日本人は私一人のようです。

もちろんフランスの戦争記念館ですから、連合国からの視点でみた第二次大戦〜冷戦という近代史の展示です。どうして第二次大戦にいたったのか、写真や映像、壁に書かれているテキストで細やかに社会や戦争を説明してありました。

そして、遠く日本のコーナーも。
どうして日本が枢軸国の一員となっていったか、招集された学徒出陣の軍人に送られた旗なども展示されていました。

 

私がいわゆる連合国側の戦争メモリアルミュージアムを見に行ったのは実はこれが2回目。
20年前にアメリカの博物館を観に行った時にも、そこで語られている敵国「日本」という国がとっても遠い存在のような、信じられない気持ちだったのを覚えています。
歴史を学んで知っていたのにもかかわらず、「え?!ここで言っている”敵国”って日本の事?」と改めて戸惑ったのです。
日本の戦争ミュージアムであれば、日本の戦時下の暮らしの悲惨さや空襲の激しさ、特攻隊の悲しい歴史が語られているので「日本も大変だったのだな」と感じることができますが、アメリカの博物館にしろフランスのメモリアル記念館にしろそこに見る事ができるのは「いかにドイツや日本が他国を侵略していったのか」であり、それをみた感想としては「日本もたくさん被害を負ったのだ」はありません。
原爆の話も悲惨さもほとんど触れてはいません。
つまり、これが、連合国からみた敵国「日本」であります。
歴史は、時代や立場によって見方が変わるものであります。

 

そして、忘れてはならないのが、日本は敗戦後に憲法によって戦争を放棄した国家ですが、フランスは核保有もしている世界でも名だたる超軍事大国であるということ。戦争に対する国家の立場、価値観が違います。
良い悪いは別として、もし、かの戦争で日本が負けていなかったら日本は国防の観点からも戦争を放棄することはなかったでしょうし、「戦争を放棄した(させられた、が事実でしょうが)」世界で類を見ない国家の観点は、世界でも独特の存在だということは忘れてはならない事実でもあります。
正直、他国から理解されにくい日本の国防の現状。
現状の日本の国防を知っている国からは日本の思う「平和」は共感されにくいだろうなと複雑な思いを抱きましたし、日本の価値観はどこまで世界各国と共有共感していけるのだろうかと考えさせるきっかけにもなりました。

 

メモリアル記念館のハイライトは、もちろんD-Dayとよばれる「ノルマンディー上陸作戦」。
ノルマンディー上陸作戦とは、今風にいうと、欧米vsドイツの「ガチの戦い」でありますが、映画さながらに作戦前日から当日の過酷な上陸戦が映像上映されていました。
息をつめて見守る観客たち。
その後すぐにはじまる冷戦の展示を経て、ベルリンの壁が崩れたところで一通りの展示が終了しました。

 

次の特設展示上では準備中ということで、看板に南京大虐殺の文字が。
公開期間前ということで見る事はできませんでしたが、展示されるにちがいない内容を思うと、胸が痛かったです。

 

そのまま館内を突っ切りメモリアル記念館の外に出ると、先ほどまで降っていた雨がやみ、冷たい風の中で日差しがピンと伸びていたのが印象的でした。
濡れた落ち葉を踏みしめ、市街地まで戻るトラムを待っていた時に、スウェーデンからの観光客と一緒になり。
時刻表を見て「もうすぐ来ますね」と雑談をしながら一緒にトラムを待ちました。

何が正義で何が悪かという話はここでは語りませんが・・・
国や時代によって、観ている視線の方向が違うのだと思い知らされた貴重なカーン旅行でした。